ドローン飛行前後に行う最低限のことをチェックリストとして項目立てしました。特定飛行を行う場合に、航空法の飛行許可を取得して、小型無人機等飛行禁止法、自治体条例など、ドローン飛行に係わる全ての規制をクリアしていることを前提としてお話しします。
絶対に押さえておくべき飛行前後に行う最低限のこと
飛行前後に行うことは多岐に亘りますが、ここでは知っておかないといけないことを5項目に絞ってお話しします。その前に、知っておかないといけないことではありますが、聞けば当たり前だと思うであろうことをまずご紹介します。
聞けば当たり前だと思うだろうこと
(1)アルコールや薬物の影響下での飛行
「アルコール又は薬物の影響で正常な飛行ができないおそれがあるときは飛行させないこと。」
これは、道路交通法の「酒気帯び運転等の禁止」「過労運転等の禁止」に似ています。
道路交通法第65条第1項
「何人も、酒気を帯びて車両等を運転してはならない。」
道路交通法第66条
「何人も、前条第1項に規定する場合のほか、過労、病気、薬物の影響その他の理由により、正常な運転ができないおそれがある状態で車両等を運転してはならない。」
(2)体内に残るアルコールの程度
少し補足しておきますと、アルコールによる体への影響は、個人の体質やその日の体調によって変わるため、体内に保有するアルコールが微量であってもドローンの正常な飛行に影響を与えるおそれがあるとされています。このため、体内に保有するアルコール濃度の程度にかかわらず、体内にアルコールを保有する状態でのドローンの飛行が禁止されています。
また、「薬物」は、麻薬や覚醒剤などの規制薬物に限りません。医薬品も含まれます。
ドローン飛行(航空法)で違反すると1年以下の懲役または30万円以下の罰金です。
(3)薬の副作用について(道路交通法の例)
なお、国土交通省HPでは、ドローン飛行の薬物服用について「医薬品も含まれる」との記載しか見つけることができなかったため、趣旨が類似している道路交通法で、薬による車両の正常な運転に与える影響について警察庁が注意喚起を行っているものがありましたので、参考まで引用します。
「日常的に私達は、風邪や花粉症等の疾病の治療や症状の緩和のため薬を服用します。しかし、車を運転する場合には、その服用によって正常な運転ができない影響を受ける時は、この法に触れることになります。」「その薬の特性を知り、用法に従った服用を管理して、正常な運転ができる状態を確保したうえで運転し、または、運転させることが大切です。」(出典:警察庁HP「薬の副作用と運転について」から抜粋)
さて、次からは知っておかなければいけない5項目です。
知っておかなければいけない5つのこと
1. 「登録記号」の機体への表示
(1)登録記号について
機体重量が100グラム以上のドローンを屋外で飛行させる場合は、特定飛行の有無にかかわらず機体の登録が必要です。登録された機体に国土交通省から付与されるものが登録記号です。
登録記号は、機体本体(バッテリーのように脱着可能な箇所は不可)に油性ペンなどで直接記載するかテプラ等で貼り付けます。表示の消滅等が生じないよう耐候性を考慮します。記号(文字・数字)の大きさは、高さ3mm以上(機体重量が25kg以上の場合は高さ25mm以上)です。
登録記号は、必ず「JU」から始まる12桁のアルファベット大文字および数字の組み合わせです。
(2)登録記号の剥離に注意
既に表示をしている機体でも、文字が見えにくくなったり、貼り付けた場合は剥がれていないかを確認します。貼り付けていたものが剥がれていたなど、登録記号の表示がない状態で飛ばしたら50万円以下の罰金です。機体登録そのものを受けずに飛行させた場合は、1年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
2. リモートIDの書込み・搭載
(1)リモートIDについて
登録をした機体を飛行させるには、リモートIDの書込み・搭載を行う必要があります。最新の市販機は機体にリモートIDが内蔵されているものが多いです。リモートIDによって、機体の製造番号、登録記号、飛行している位置、速度、高度、時刻などが発信されます。特定飛行を行わない場合も搭載する必要があります。
(2)時々ある内蔵型リモートIDの未設定
リモートIDの設定について、時々、勘違いされている方がいらっしゃいますので、念のためお伝えします。
DIPSでの機体登録の際に、リモートID有無の欄で「あり(内蔵型)」を選択すれば、すべての手続が済んだと思われている方をお見掛けします。しかしそれでは済んでいません。機体と国土交通省のシステムとを紐づけしておかなければなりません。これをリモートIDの書込みといいます。例えばDJI社のリモートID内蔵型機体の書込み方法は次のとおりです。
DJIストア【解説】リモートID対応機種に対するリモートID書込み方法 – 一般向けドローン –
(3)外付け型リモートIDは充電と電源ON
外付け型のリモートIDの場合も、同様に飛行させる機体に合わせて書込みます。別の機体にそのリモートIDを使用する場合は、登録記号や機体製造番号が異なりますので同様の方法で書込みし直せば使えます。一例として、エアロエントリー社のAERO-D-X1の書込み方法は次のとおりです。
エアロエントリー AERO-D-X1 導入手順書 V1.2.pages
外付け型の場合は、リモートID装置が充電がされているか、電源がONになっているかを確認しましょう。
ドローンの登録記号を識別する措置を講じない、つまりリモートIDの書込み・搭載をしないで飛行させた場合は50万円以下の罰金です。
(4)リモートID搭載免除例
なお、リモートID搭載が免除される場合があります。それは2022年6月19日までに事前登録申請が受付けられた機体、あらかじめ国土交通大臣に届け出る「リモートID特定区域飛行」や「試験飛行」、十分な強度を有する紐等(長さ30m以下)で係留し範囲を制限した飛行および国土交通大臣が指定する機関の警備その他の特に秘匿を必要とする飛行です。
リモートID特定区域は、多数の機体を飛行させるドローンショーなどでみられる届出です。
3. 飛行計画の通報
(1)飛行計画の通報について
飛行計画の通報は、自身が飛行させるドローンの飛行日時やルートが、他のドローンの飛行と重複しないよう事前に飛行計画の情報を共有して、ドローン同士の衝突を未然に防止するための制度です。機体登録や飛行許可申請と同じDIPSを利用して通報します。この通報は特定飛行においては義務、それ以外は推奨となっています。
(2)通報のデッドライン
飛行前に通報する必要がありますが、「いつまでに通報するのか?」とのご質問に対しては、「飛行する前までに通報する」という答えになります。現場を確認しながら飛行直前に通報しても構いません。極めてまれなケースとしては、DIPSの通報システムに障害が発生して、飛行を開始するまでの間に通報する手段のない場合が考えられます。その場合には、飛行を開始した後でも飛行計画を通報することができます。
(3)通報できること、できないこと
現在のDIPSでは1年先までの通報が可能ですが、特定飛行の場合は許可書の期限までしか通報できない仕様になっています。また、通報項目のうち、飛行高度や飛行時間については注意が必要です。ご自身の飛行が150メートル以上の許可を取得していなければ149メートルまで、夜間飛行の許可を取得していなければ日の出から日の入りまでの昼間の時間で通報して、許可範囲での高度、時間で飛行させる必要があります。また、夜間の目視外飛行、人口集中地区の夜間飛行は、場所を特定した許可を取得していなければ飛行させることができません。
(4)飛行計画の重複調整
なお、他のドローンと重複しないように安全を確保することが必要です。飛行計画を通報すると他の飛行計画と重複している旨のメッセージが出ることがあります。その場合は重複を避けて通報したり、時間帯や飛行エリアの調整が必要なら飛行計画調整掲示板などを使って相手のドローン操縦者との調整を実施します。
飛行計画を通報せずに特定飛行を行うと30万円以下の罰金です。
参照:国土交通省ドローン情報基盤システム(DIPS)「使い方(飛行計画通報の手続き)」(別ウインドウで開きます。)
4. 飛行前後の点検・確認
(1)点検項目は飛行マニュアルに記載あり
特定飛行のために飛行許可承認申請を行った場合には、国土交通省に対して安全体制を約束しています。それが飛行マニュアルとなっています。標準マニュアル(無人航空機飛行マニュアル)には、「飛行前に、気象、機体の状況及び飛行経路について、安全に飛行できる状態であること、飛行させる場所が緊急用務空域に指定されていないことなどを確認する」と書かれていますので、これを守ります。
独自マニュアルでも同様です。これらの確認事項を削除して申請した独自マニュアルは審査に通りません(「削除して申請したことなどない」というのが正確な表現ですが)。
(2)具体例
「機体の状況」を確認することについては、次の「5.飛行日誌への記載」で詳しくお話しします。ここではそれ以外の「気象、飛行経路、緊急用務空域」について、国土交通省「無人航空機に係る規制の運用における解釈について」の記載を引用しつつ触れます。
- 気象情報を確認
①風速が運用限界の範囲内であること(離着陸場所の地上風及び飛行経路上の各高度帯における風向風速変動を確認)
②気温が運用限界の範囲内であること
③降雨量が運用限界の範囲内であること
④十分な視程が確保されていること(十分な視程が確保できない雲や霧の中では飛行させない) - 飛行経路とその周囲の状況を確認
①航空機や他の無人航空機が飛行していないこと
②飛行経路の直下及びその周辺の落下分散範囲に第三者がいないこと - 緊急用務空域に指定されていないことの確認
①国土交通省HPまたは国土交通省X(国土交通省航空局 無人航空機)で確認
飛行前の確認をせず飛行させた場合は、50万円以下の罰金です。
5. 飛行日誌への記載、飛行実績および点検・整備の記録
(1)飛行日誌について
「飛行日誌」は、飛行記録、日常点検記録、点検整備記録の3つの様式から構成されています。国土交通省が定める様式は、いろいろな機体を同じ飛行日誌の中に混在させて記録していくのではなく、機体毎に備えるものです。操縦装置単体で飛行日誌の管理を行ってもよいこととされていますが、その場合は独自に様式を定める必要があります。この飛行日誌の記載は特定飛行においては義務、それ以外は推奨となっています。
なお、飛行日誌への記載については、DIPSは使用しません。
(2)紙または電子媒体で用意
続いて、記録する中身についてお話しします。ただし、これらすべての項目・中身を覚えて点検することは、容易ではありません。また、記録の媒体については、紙でなく電子媒体でも構いませんので、飛行日誌アプリなどを利用するのが便利です。アプリを採用する場合は、法令に準拠していること、その一環として、各様式に記載すべき事項が一括して参照または提示可能であることが大切です。因みに当事務所は「フライトダウン」というウェブサービスを利用しています。
(3)記載項目の具体例
記録する中身は以下のとおりです。
- 飛行前の点検 飛行前に、以下の点について機体の点検を行い「日常点検記録」に記載します。
①各機器は確実に取り付けられているか(ネジ等の脱落やゆるみ等)
②発動機やモーターに異音はないか
③機体(プロペラ、フレーム等)に損傷やゆがみはないか
④燃料の搭載量又はバッテリーの充電量は十分か
⑤通信系統、推進系統、電源系統及び自動制御系統は正常に作動するか - 飛行記録 飛行させた都度「飛行記録」に記載します。
飛行年月日、操縦者氏名(および無人航空機操縦者技能証明書番号)、飛行の目的及び経路 、飛行させた飛行禁止空域および飛行の方法、離陸場所および時刻 、着陸場所および時刻、飛行時間、製造後の総飛行時間、飛行の安全に影響のあった事項の有無・内容、不具合およびその対応 - 飛行後の点検 飛行後に、以下の点について機体の点検を行い「日常点検記録」の特記事項欄に記載します。
①機体にゴミ等の付着はないか
②各機器は確実に取り付けられているか(ネジ等の脱落やゆるみ等)
③機体(プロペラ、フレーム等)に損傷やゆがみはないか
④各機器の異常な発熱はないか - 定期的な点検記録 認証機体ではなく飛行許可で飛行させる場合は、標準マニュアルに20時間の飛行毎に点検を行う旨の記載があります。以下の事項について点検を行い「点検整備記録」に記載します。
①交換の必要な部品はあるか
②各機器は確実に取り付けられているか(ネジの脱落やゆるみ等)
③機体(プロペラ、フレーム等)に損傷やゆがみはないか
④通信系統、推進系統、電源系統及び自動制御系統は正常に作動するか
どのように記載するか記載例については、以下の資料の14ページ以降をご確認ください。
参考:国土交通省HP「無人航空機の飛行日誌の取扱いに関するガイドライン」
飛行日誌に記載しなかったときは、10万円以下の罰金です。
付け加えてお伝えしておきたいこと
以上が、知っておかなければいけない5つのことです。もう少し、付け加えさせてください。万が一事故が起きた場合は、次の行動をとることが肝要です。
事故が起きた場合はまず救護措置、救急や警察への連絡、国交省への報告
(1)事故時の対応
事故または重大インシデントが発生した場合は、ただちに飛行を中止し、負傷者の救護を最優先に行ってください。
そして消防や警察への必要な連絡をしてください。救護措置の後に、国土交通省への報告をDIPS2.0で行ってください。
飛行を中止し負傷者を救護する措置をしなかったときは、航空法におけるドローン飛行で最も重い罰則である2年以下の懲役または100万円以下の罰金です。
国土交通省への報告は、以下に該当する場合です。
- 事故
人の死傷(重傷以上)
第三者物件の損壊(損壊の規模や損害額を問わずすべての損傷が対象です。)
航空機との衝突または接触 - 重大インシデント
人の負傷(軽傷)
ドローンの制御が不能となった事態
ドローンが飛行中に発火した事態
航空機との衝突または接触のおそれがあったと認めたとき(ドローン側で認めなくとも、航空機側から報告が出されることが考えられます。)
人については、操縦者や補助者、その他飛行に直接的又は間接的に関与している人の死傷・負傷も含みます。
(2)ロスト時の対応
人や第三者物件の被害がなく、また、ドローンの制御不能に該当せず、単にロストした場合には、この事故・重大インシデントの報告ではなく、以下の登録抹消の申請義務が生じます。
航空法第132条の11関係
登録ドローンの所有者は、以下の事由があった日から15日以内に登録抹消の申請をしなければなりません
①ドローンの滅失または解体(整備・改造・輸送・保管のための解体を除く)をしたとき。
②ドローンの存否が2か月間不明になったとき。
③ドローンではなくなったとき。
その他、不法投棄にならないよう発見回収に努めるとともに、警察への遺失物届も大切です。
最後に、忘れてはならないことですので次のことも覚えておいてください。
無人航空機飛行許可承認書と飛行日誌の携行
特定飛行の場合は、飛行当日の携行物として飛行許可承認書と飛行日誌は必ず携行してください。紙媒体、電子媒体のどちらでも構いません。
なお、国家資格である無人航空機操縦者技能証明を取得している方は、技能証明書の携行も忘れないでください。
航空法第132条の54関係
技能証明を受けた者は、特定飛行を行う場合には、技能証明書を携帯しなければならない。
行政書士さいれんじ事務所はドローン飛行許可申請を代行しています。
ドローン飛行について、社内で航空法の遵守内容の周知・浸透が難しいことがあります。当事務所では、ドローン飛行における法令遵守の勉強会にお邪魔してお話しをさせていただいております。このページに記載しました内容でご不明なところがございましたら、お気軽にお問い合わせ下さい。
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