「高圧線、変電所、電波塔、無線施設などの施設上空及び付近では飛行させな い。」
この文言が、特定飛行で使用する標準マニュアル02にはあります。更にただし書きもありますので、これらについてお話しします。
「高圧線、変電所~」は飛行マニュアルに記載されている文言
そもそも「飛行マニュアルとは何か」の説明から始めます。ご存知の方には不要な内容ですので、「『高圧線、変電所~』にただし書きが加わり、運用が緩和された」の箇所まで読み飛ばしてください。
飛行マニュアルについて
飛行マニュアルは飛行許可承認申請の際に必須の添付資料
この飛行マニュアルは、ドローンの飛行許可承認申請を行う際に必ず添付しなければならない資料です。
申請では、大きく分けて以下の3項目について必要事項を申請し、審査を受けます。
①ドローンの機体認証書番号またはドローンの機能・性能
②操縦者の技能証明書番号またはドローン飛行経歴・飛行させる知識能力
③ドローンを飛行させる際の安全を確保するために必要な体制
このうち③については、「飛行させる際の安全を確保するために必要な体制」を具体的に示すものとして、飛行マニュアルを作成し申請書に添付することとなっています。
ただし、この飛行マニュアルは国土交通省が作成したサンプルがあって、安全を確保するための体制のために「少なくとも必要と考えられること」が記載されています。それが「標準マニュアル」です。
標準マニュアルの種類
この標準マニュアルは6種類あります。
①航空局標準マニュアル01・・・飛行場所を特定した申請用
②航空局標準マニュアル02・・・飛行場所を特定しない申請用
③航空局標準マニュアル(空中散布)・・・空中からの農薬、肥料、種子又は融雪剤等の散布用
④航空局標準マニュアル(研究開発)・・・場所を特定した研究開発のための試験飛行用
⑤航空局標準マニュアル01(インフラ点検)・・・場所を特定したインフラ・プラント点検飛行申請用
⑥航空局標準マニュアル02(インフラ点検)・・・場所を特定しないインフラ・プラント点検飛行申請用
標準マニュアルは中身の理解が必要
標準マニュアルをそのまま利用すれば申請は容易ですが、その中身について予め理解しておく必要があります。表紙や目次などを除き、本文は5~6ページの内容です。
わずか5~6ページですが、しかしこれが、すんなりと読み込めない箇所もあります。文章を読んで不明な場合でも、実際の運用・解釈がどうなっているのか、解説したものはありません。
今回は、その中でも運用実態が分かりにくい標準マニュアル02の「高圧線、変電所、電波塔、無線施設などの施設上空及び付近では飛行させな い。」と、それに続く「ただし書きの箇所」についてお話しします。
「高圧線、変電所~」にただし書きが加わり、運用が緩和された
標準マニュアルには多くのアンダーラインがある
2022年12月5日以降に初めて標準マニュアルをご覧になった方にとっては、マニュアルにアンダーラインが引かれている箇所があるが何故なのか、疑問を持たれたかもしれません。これらは、2022年12月5日に改訂された標準マニュアルで、新たに追加、改訂となった箇所を示したものです。
同日に施行された改正航空法で、特定飛行の際に義務となった「飛行計画の通報」や「飛行日誌の作成」などの説明や、具体例の追加のほか、それまでは「~飛行させない」と禁止事項のみだったものに、ただし書きで禁止の例外が加わったり、「補助者の配置に代えることができる」措置を盛り込んだりなど、運用面で緩和するものが加わったのです。ただし書きは、概ねそれまで独自マニュアルで認められていた範囲のものです。
その後、2024年末時点まで標準マニュアルの新たな改正はありません。
禁止だが、「業務として飛行が必要な場合」は例外
標準マニュアル02に記載されている「高圧線、変電所、電波塔、無線施設などの施設上空及び付近では飛行させない。」の箇所も同様です。以下のとおりただし書きが加わりました。
高圧線、変電所、電波塔、無線施設などの施設上空及び付近では飛行させな い。
ただし、高圧線、変電所、電波塔、無線施設などの施設点検等の業務として飛行が必要な場合は、飛行範囲を限定し、不必要な飛行をさせないようにする。さらに、一定の広さのある場所を飛行させるとともに、経路下における第三者の立ち入りについて制限を行い、第三者の立ち入り等が生じた場合は、速やかに飛行を中止する。また、突風、電波障害など不測の事態を考慮して当該場所の付近(近隣)の第三者や物件への影響を予め現地で確認・評価し、補助者の増員等を行う。
「高圧線、変電所、電波塔、無線施設などの施設点検等の業務として飛行が必要な場合」は、これらの施設上空と付近であっても、一定の条件の下で飛行できることとなりました。
「施設点検等の業務として飛行が必要な場合」とは関係者による飛行
絶対に飛行させてはならなかったものから、独自マニュアルに書き換えすることなく「高圧線、変電所~などの施設点検等の業務として飛行が必要な場合」は、条件付きで飛行できることになったのですが、それでは「施設の点検等の業務として飛行が必要な場合」とは、どのような場合を想定のうえ運用されているのでしょうか?
想定している飛行として、当職が国土交通省無人航空機安全課から聞いているものは以下のとおりです。
「当該施設の関係者(当該施設から業務の依頼を受けた者を含む)による飛行を想定したものです。」
施設所有者・管理者や、そこから依頼を受けた事業者が、施設の点検・計測・保守・整備・改修などのためにドローンを飛行させる場合に適用となるようです。
当該施設とは関係のない者による空撮などで、高圧線等の付近の飛行を行うのは、原則この標準マニュル02は使えないことになります。
「施設上空及びその付近」に数値基準はない
標準マニュアルの中には「付近では飛行させない」という文言が随所に見られます。「付近」については、数値基準が決められていません。
ドローンの飛行においては、飛行高度や速度、風向風速その他の気象条件などによって飛行環境が変わります。飛行場所を特定しない標準マニュアルにおいては、共通した一律の数値を示すことも困難なのだと思われます。
標準マニュアル02の「高圧線、変電所、電波塔、無線施設などの施設上空及び付近」の「付近」も、明確な解が得にくいものです。この場合は、高圧線などからの電磁波の影響も大きく関係します。
国土交通省の「無人航空機(ドローン、ラジコン機等)の 安全な飛行のためのガイドライン」での注意喚起も、十分な距離を保つという表現にとどまっています。
高圧線、変電所、電波塔及び無線施設等の施設の付近ならびに多数の人がWi-Fi などの電波を発する電子機器を同時に利用する場所では、電波障害等により操縦不能になることが懸念されるため、十分な距離を保って無人航空機を飛行させてください。
標準マニュアル01を使う
飛行させていいものかどうか判然としない場合には、飛行場所を特定した個別申請を行うことが得策です。国土交通省の審査も飛行場所を確認した上で行われますし、マニュアルも01を使用することになります。標準マニュアル01は、飛行場所を特定した申請用ですので、当然「高圧線、変電所、電波塔、無線施設などの施設上空及び付近では飛行させな い。」の文言はありません。
国土交通省も、以下のスタンスです。
「高圧線、変電所、電波塔及び無線施設等の施設付近での飛行については、原則個別申請をお願いしております。」
個別申請で、飛行場所と高圧線等との距離、必要な安全対策の特記を行い、業務上必要な飛行を追及していくことが必要と思われます。
標準マニュアル02には、運用実態はどうなっているのか?と疑問に思う箇所が、ほかにも出て参ります。
例えば、「学校、病院、神社仏閣、観光施設などの不特定多数 の人が集まる場所の上空やその付近は飛行させない。ただし~」、「高速道路、交通量が多い一般道、鉄道の上空やその付近では飛行させない。」などです。
これらについては、別途お話しさせていただきます。
![高圧線・高圧鉄塔の写真](https://sairenji-office.com/wp-content/uploads/2024/12/31151650_s.jpg)
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